私は作家の娘で大邸宅に暮らしている。
「私は作家の娘で大邸宅に暮らしている。」
青年は、そんなことは全然気にしていない様子だった。
「これなんですけどね」
と青年は、大学ノートを見せた。
作品は、大学ノートを横にして鉛筆で縦書きに書かれていた。
触ると、表紙が、ぬめっとしていた。唾液のような感触だった。
ノートはなんとも小汚くチャチなしろものだった。
普通、原稿用紙に清書するか、あるいはプリントアウトしたものを持ってくるでしょうに。
私は、心の中で、半ばあきれていた。
「賞には応募なさらないのですか?」
私は青年に訊ねてみた。
「あんな運試しのようなものはダメです。選ばれる確率なんて恐ろしく低い。運などに頼っていては道は開きません。そんなことしていては、僕の作品は、いつまでたっても日の目を見れない。運が悪いという理由だけで埋もれてしまっているかもしれない他のたくさんの不遇の作品たちのようにね」
「なるほど。たしかに落選してしまったものの中にも奇跡のような名作が
あるかもしれませんものね。」
「そうです。そのとおりです。だから僕はそんな目にあいたくないので
こうやって先生にじかに作品を持ち込んで評価していただこうと思いまして」
青年は、本気だった。真剣だった。
しかし私は、そのうす汚い大学ノートに記された彼の作品が、素晴らしいものであるとは、どうしても思えなかったのである。
と、まあそんな夢。えらく疲れた。
夢の中の私は、作家の娘として、大邸宅に住んで優雅に暮らしているようだった。
現実とはあまりにも違いすぎ。うらやましすぎ。